宇宙ビジネス元年にあたり

H2Aのメインエンジン
本書を読んだ後にロケットエンジンを眺めた時の写真。ノズルの上が気になる年頃

今年は宇宙ビジネス元年と勝手に唱えてはいるのですが、「宇宙はどこまでいけるか ロケットエンジンの実力と未来」をたまたま読んでおもしろいということでメモ。で、その先にあるのはなぜか宇宙戦争という発想が飛躍します。

宇宙はどこまで行けるか-ロケットエンジンの実力と未来 (中公新書)
小泉 宏之
中央公論新社
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技術的なお話

まず技術的な読み物としての感想は、宇宙でのエンジンというのは、エネルギー保存則に実直というか、チートはないというか、なんらかのモノを放り投げた反作用で進むのである、を用途や到達距離、経済合理性という制約条件に合わせて設計をしているのだなという理解。

それは別に地球でも一緒なんでしょ?といえばそうなのですが、基本的には地球の重力、大地、大気、水などの媒体との関係の中でのお話なので、いろんな外乱や抵抗があった上での移動ということになります。

一方、宇宙に出てしまえば、ほぼ抵抗になる媒質は存在しないので、ロケットなどは、噴出したなにかの速度と質量によって前に進むのである、が先鋭化されます。

ということで、まず面白かったのが液体ロケットエンジンの効率化の仕掛けについて。

違いのわかる液体ロケットエンジン

なんとなく、ノズルがあって、燃料に火をつけたらババっと噴出するんでしょ?とおもっていて、その燃料の違いによって強さが違うんだろうぐらいには思ったのですが、当たり前ですが話はそんなに単純ではないと。

ロケットの燃料を燃やす燃焼室に燃料を送り込むには、高圧である必要があり、その燃料をどうやって圧縮するかというと、別の圧縮機を使って圧縮しているとのこと。そして、その圧縮機と同軸のタービンを回す方法として、1. ガス発生器サイクル、2. 2段階燃焼サイクル、そして、3. 膨張サイクルが主要なシステムだそうです。

ガス発生サイクルは燃料をタービンを回すために燃やした後は捨ててしまう方式で、仕組みはそこまで複雑ではないけれども、燃料を無駄にしてしまう欠点がある。2段階サイクルでは無駄なきように燃焼室に戻す仕組みだが、一方で燃焼室に送り込むだけの高い圧力をタービンを回した後のガスは保っていなければいけないという複雑さがあるそうです。膨張サイクルは、燃焼ガスを用いずにあっためた燃料の膨張を利用して回す方法とのこと。最後の膨張サイクルは高出力は無理とのこと。

通常の商業衛星の打ち上げなどは液体燃料のロケットが多いかとは思うので、筆者も文中で書いていますがどのようなシステムのロケットエンジンを採用しているかを調べると一見しておんなじように見えるロケットも違いのわかる男になれるようです。

イオンエンジンは怪しくない

さて、マイナスイオンは怪しい響きがありますが、イオンエンジンは怪しくないと解説を読むことでの納得感。実際、イオンエンジンはニュースで聞いたり、展示会で模型を見たりと名前だけは知っていたのですが原理についてはイマイチ理解しておらず。要は、轟々と音を立てるわけでもないので、地味に何かをテレパシー的なモノを出しているのだろうと思っていたのですが実際はイオンを噴出しているとのこと。

で、イオンとはなんぞや、ですが、電子がはずれちゃった原子、とのこと。イオンエンジンは原子(諸般の理由でキセノンという希ガスがよいとのこと)をすごく温めるなどしてプラズマにして、イオンをすんごい速さで吹き出して進んでいるそうです。

では、普通の液体ロケットではいけないのか?という疑問が湧きますが、遠くまで行こうとするとガスの噴出で得られる噴出の速度が低いことと、遠くまで加速を続けるための燃料を持っていこうするのが大変とのこと。一方、イオンエンジンは同じだけの加速を得ようとする燃料が噴出速度が速いがために少なくてすみ、結果的に最初にローンチするときの質量が少なくて済む、ということのようです。

そしたらば、イオンエンジンで地球から飛び立ったらいいですね!といえるかというとさにあらず、プラズマにするためには電力を使うため、現実的な電力で噴出できるイオンの量が、地上を飛び立つだけの推力を出せない。

イメージとしては、どんなに長い息でも、床をフーフーしているだけでは飛べない、ということかと思います。息をフーフーしてる人がすごく軽いか、ものすごくフーフーの速度が早ければ飛べるかもしれないですが。(なお、イオンエンジンはそもそも大気中では使えないとのこと)

文化系の妄想

では、一般人として宇宙は身近になるかというと、まだまだ彼方の存在ではありますが、二つの側面から近くなるのではと考えております。

一つは、イオンエンジンなど技術開発がすすむことで、従来と比較して所定の機能や性能のモノを宇宙に届けるとすると、小型軽量になることで複数台同時に搭載して打ち上げることによりコスト削減が期待できます。結果として、衛星などを宇宙に持っていくチャンスが増えることで新たないビジネス参入の機会も増えると考えます。すなわち、従来と比べて国策や防衛以外の民生での宇宙利用の裾野が徐々に広がっていきます。

もう一つは、民間宇宙旅行というのもちらほらとニュースを聞くようになってきました。現状、普通の人が宇宙に行く意味というのは、多分に思想的なものと思いますが、ロケットを地上から打ち上げる機会が増えれば量産効果によって単価は下がることで、今後100年ぐらいで一般庶民にもやや身近になっていくのだろうと思います。

やや長期的な思想としては、準国家といったものが宇宙にできる可能性もあるのではないか?ということ。宇宙ビジネスが活況になり、宇宙旅行にいく人も増え、宇宙ステーションのホテル版のようなものが登場したとすると、そのホテルで集う人たちはどのような法律によって規定されていくのかを考えると興味深くもあります。

ある程度の規模では地球からの補給に頼ることになるため地上の国家に脅かされたら成り立たなくなるわけではありますが、もう少し大きな規模で月や小惑星を資源として自給できるとなった暁には、ジークジオンではないですが地球とは別もんやからねを高らかに宣言せざるとも限りません。そうすると、それが気に食わない地球の人たちは宇宙軍をもって実力で屈服させるというさらにSFになるわけですがいかがなものでしょうか。

翻って現実に戻りますが、やはり地球から宇宙にでるコストが一番高いんだろうなとおもうと、そこにブレイクスルーが起きることを祈念しつつ、一枚噛めないものかとチートも祈願しておきます。

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